「手紙」が文庫になったので読んだ。良かった。
強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く…。
加害者とその家族の側から描かれていて斬新。またそれは非常に重いテーマを扱った作品だった。
くり返し描写される犯罪者とその家族に対する差別は、現実社会で確かにあることだろう。普通の人間は自分とその家族を守るために、普通ではないもの、犯罪者からできるだけ距離を置こうと思うのは当然だ。近親者から犯罪者が出たとき、また、近親者に犯罪者を持つ人と出遭ったとき、果たして自分はどうするだろうか。ずっと考えながら読んだ。
ただ、どこか物足りなさを感じる。皮肉ではなく描写が巧みすぎるので、読者の心を動かす前に余分な説明をしてしまう。その割に登場人物の描写がぞんざい。そして作品としての結論に癖がない。直木賞を契機に「容疑者Xの献身」、続けて「秘密」「探偵ガリレオ」「時生」を手にしたが、いずれも同じ感想を抱いた。
これが東野圭吾の作風と言えば相性の問題だが、あと一歩踏み込んでくれると読み甲斐が出て嬉しい。その一歩を描きたいと思う人が映像化しているのなら、映画も観てみようかと思った。
[広告]