一目惚れ2010

僕はよく一目惚れをする。

ある日の朝食は、なか卯の納豆定食。

食券機に100円玉を4枚投入し「納豆定食390円」のボタンを押す。それと同時に厨房の奥から「納豆!」と言う電子音声が聞こえる。おつり皿にチャリーン10円玉が1枚、「納豆定食」と書かれた食券が1枚が出てくる。

いざ食券を持ちカウンターへ向かう。先客数名の配置を考慮した上で、一番当たり障りのない席を選び座る。店員が「いらっしゃいませ。納豆定食ですね」の声と同時にお茶を持ってくる。僕は「ご飯、軽めで」と食券を差し出す。店員は「かしこまりました。少々お待ちください」と厨房に下がる。この手のお店は商品の提供が早い。熱いお茶を一口すするうちに納豆定食が供される。

なか卵の納豆定食

これぞ日本の朝ごはんである。

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僕はいわゆる「牛丼屋」と呼ばれる数あるお店の中で、朝ごはんはなか卯にぴか一の評価をしている。それぞれ簡単にポイントを挙げていこう。

  1. ご飯が美味しい。基本中の基本である。また、定食における盛りが適量であることも見逃せない。何でも丼で供し安易に腹を膨らますことをよしとする流れに一石を投じている。お客様の健康を第一に考えた故の盛りである。
  2. みそ汁が美味しい。上品な白味噌の風味が良い。正直、他の牛丼屋とは比べ物にならない質である。季節により、夏はオクラ、冬はなめこ、今であれば菜の花などを使い旬を感じさせる。
  3. 納豆が美味しい。粒が大きく量にも満足。加えて忙しい朝、食後すぐ移動する人、職場へ向かう人への配慮から匂いが控えめのものとなっている。
  4. こだわり卵が美味しい。濃厚でコクがある。今でこそ単品60円で提供されているが、展開をはじめた当時は100円という強気な価格で、それだけ自信があったことを伺わせる逸品である。価格は下げても質は下げない。
  5. 海苔が美味しい。パリッとして香り高い。
  6. お新香が美味しい。瑞々しく味わい深い。

味噌汁を一口、ご飯を一口、身に染み付いた習慣を済ませる。

納豆のフタを剥がしタレとカラシの小袋を取り出す。納豆に直接かけられているビニール、これに納豆を一粒も残さぬよう控えめな速度で取り去る。カラシを絞り出すに最適な切り口を想定して小袋を慎重に切り、納豆にかけて混ぜる。最低60秒、つよい粘りが出るまで忍耐強く混ぜる。しばらく納豆から離れよう。粘りが出てから少し時間を置くと納豆特有の栄養素が増すと言う。

卵を割って器に入れる。殻を机に叩きつける力加減は繊細の境地。また少量の醤油を加えることにも神経を尖らせる必要がある。卵は混ぜすぎてはいけない。熱いご飯の上で変質する白身の旨さを堪能する必要があるからだ。

次に味付けのりを袋から出す。箸で取り上げやすいように、一枚一枚を少しずつずらして皿の上に並べる。なお味付けではない場合、のりを置く皿と醤油皿の2枚が必要になるが、対応してくれる店は少ないのが現状である。昨今、卵を混ぜる器と殻を入れる器を用意することが常識化する中、これは由々しき事態である。

さて、話を納豆に戻そう。カラシ同様、タレを搾り出すに相応しい切り口を想像して小袋を丁寧に切り、納豆にかけ、もう一度じっくりと混ぜる。今度は10秒から15秒で十分である。ここまでしてやっと納豆定食を食す手はずが整う。

そこに新しい客が入店する気配を感じる。

ふと顔をあげると小柄で華奢な可愛らしい女性である。

札を挿入する滑らかな動き、ボタンを押すまでの迷いのなさ、おつりを取るまでの速さ。牛丼屋に女性は珍しいが、明らかに常連の域である。その後、躊躇することなく僕の隣に座り、カツカレーをスプーン一本で食べ、僕よりも先に店を後にした。

惚れた。

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