筒井康隆「家族八景」を再読。
18歳の美少女、七瀬は生まれ持ったテレパスにより、他人の心の声を聞くことができる。その彼女はお手伝いとして、8つの家庭に入り込む。以上はネタバレではなく、物語の前提。あえてジャンルを言ってみるなら、SF、ミステリ、サスペンス。いや、これは人間の裏側を描いた恐怖物語だ。ヒューマンドラマと言うにもおどろおどろしい。
人は心の底に必ず闇を持つ。他人への妬み、恨み、欲望。欲望はエロティックであり、サディスティックであり、グロテスクな感情の渦だ。テレパシーというありきたりな設定を冒頭で暴露した上で、ここまで読む側を引き込む筒井作品の真骨頂。久しぶりに手にした(10年ぶりくらいか)が、その間に僕も、まあ、それなりに人の心を覗く機会もあった。もちろん僕に特別な能力などないけれど。しかし、その経験を積んだ上で再読すると、この小説の本当の恐怖を、より鮮明に感じるようになっていた。
これは傑作。七瀬三部作の序章にして、一番お気に入り。それでも続いて「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」も読むべく本棚から引っ張り出した。
(関連)
七瀬三部作、七瀬ふたたび
七瀬三部作、エディプスの恋人
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