昨年、僕は弟を亡くした。それをきっかけに身辺を見直した。僕はそれほど長生きをしたいと思わないが、早く死ぬつもりもない。ただ、40歳を超えた独身者に何が起きるかは分からない。それで、
お先にごめん.txt
というテキストファイルが生まれた。自動保存される先頭行が、そのままファイル名となった。
人が急にいなくなった時、困るのは様々な手続きだと思った。死を知らせる相手、あらゆる契約、所有物の処分など…遺書なんてつもりはない。これは残された人へのマニュアル。
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死を知らせたい相手は10人に満たなかった。契約関係のリスト作りは、今すぐ役に立つ連絡先にもなった。所有物は、欲しい人がいたらあげるし、捨ててしまって構わない。人から譲っていただいた作品がやや心残りだけど。
あとは、本当に先に逝ってしまった場合の謝罪と感謝。そんなことを一枚のメモにまとめていった。すると不思議と気持ちが落ち着いていった。
これをプリントアウトして自宅とオフィスに置き、家族と親しい友人に、このメモのありかを教えた。両親は最初、縁起でもないと嫌がったが、逆に同じものを用意して欲しいとお願いした。お互い、先に逝かれたとき、困るのは嫌でしょと。
親より先に死ぬなとは、誰もが言われることだろう。弟は先に亡くなった。だから、俺はなおさら先に死ににくくなってしまったんだ。天国で反省して待っていろよ。あーあ、もう少し歳を重ねていたら、一緒に酒を飲むことも増えたろうに。
でも、おかげで頭の整理もできた。ありがとう。
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