「集中力」ではなく「身体」から考え直す――身体知 × フロー × 深い仕事

「集中力」ではなく「身体」から考え直す――身体知 × フロー × 深い仕事

リモートワークや生成AIが当たり前になり、私たちは以前よりも多くの情報を、速く処理できるようになりました。一方で、「一日中画面を見ていたのに、あまり手応えがない」「集中していたはずなのに、深く残る仕事ができていない」と感じることも増えているのではないでしょうか。

今日は、そうした違和感の背景にあるものとして、

身体知(Embodied Cognition)・フロー状態(Flow)・深い仕事(Deep Work)

という三つの概念を並べて考えてみます。

テクニック集ではなく、少し立ち止まって「どういう条件のとき、人は本当に没入できるのか」を見直すための考察です。集中力が続かない人、AI時代の学び方や創作のあり方にモヤっとしている人に向けて、つまり自分向けに書いています。

第1章 身体知とは何か ―― 思考は身体から切り離せない

■ 具体例

ピアノを弾いているとき、理論を考える前に指が先に動く瞬間があります。スポーツでも、考えてから動くより、身体が先に反応したプレーのほうがうまくいくことが多いものです。

■ 意味

身体知(Embodied Cognition/エンボディド・コグニション)とは、人の思考は脳だけでなく身体の感覚や動きと結びついているという認知科学の考え方です。理解や判断、創造性は、姿勢・呼吸・リズム・空間感覚の影響を強く受けるとされます。

つまり「考える」という行為は、頭の中だけで完結していない、という前提です。

■ 注意点

身体知は「感覚に任せればいい」という話ではありません。むしろ、意識的に身体の状態を整えることが、思考の質を底上げするという視点が大切です。

第2章 フロー状態 ―― 集中は“結果”として訪れる

■ 具体例

ジャズの即興演奏で、「あれ、今なに考えてたっけ?」という感覚になる瞬間。時間の流れが曖昧になり、音だけが前に進んでいくような状態です。

■ 意味

フロー状態(Flow)は、心理学者チクセントミハイが提唱した、没入と高い集中が同時に起こる状態です。

  • 適度な難易度
  • 明確な目標
  • 即時フィードバック

これらが揃ったときに起きやすいとされています。重要なのは、フローは「頑張って入るもの」ではなく、条件が整った結果として訪れるという点です。

■ 注意点

フローを目的化すると逆効果になることがあります。「集中しなきゃ」と思った瞬間に、集中は逃げていく。これは多くの人が経験しているはずです。

集中は“結果”として訪れる

〖My Voice 〗フローは“精神論”ではなく“設計”

フローに入れる人は意志が強いのではなく、環境設計がうまいだけ、という見方もできます。

集中できた日の再現性を探ると、案外「椅子」「時間帯」「姿勢」など、地味な要素が効いていることが多いものです。

第3章 深い仕事 ―― 集中力の消耗が進む時代背景

■ 具体例

通知が鳴り、会議が入り、チャットが飛び交う一日。気づけば何十回も思考が中断され、どれも「途中」のまま終わっている状態。

■ 意味

深い仕事(Deep Work/ディープ・ワーク)は、コンピュータ科学者カル・ニューポートが提唱した概念で、中断のない集中状態で、認知的に価値の高い仕事を行うことを指します。

情報過多・マルチタスクが常態化した社会への静かな対抗概念であり、量よりも「どれだけ深く潜れたか」が価値になるという発想です。

■ 注意点

深い仕事は長時間である必要はありません。むしろ、短くても“遮られない時間”を確保できるかどうかが分かれ目になります。

第4章 三つは一本の線でつながっている

ここまで見てきた三つの概念は、別々の流行語ではありません。

  1. 身体知が働く→ 思考が立体的になる
  2. 思考が立体的になる → フローに入りやすくなる
  3. フローに入れる → 深い仕事が成立する

逆に言えば、身体の状態が無視されがちな知的作業は、結果として浅く・速く・疲れやすくなる傾向があります。

※ここでは分かりやすく一本の線として示していますが、実際にはこれらは相互に影響し合い、行き来する関係でもあります。

気が散る世界での集中した仕事

〖My Voice 〗AI時代にこそ身体が問われる理由

生成AIは「答え」を速く出してくれます。でも、どこに問いを立て、どこで踏みとどまるかは身体感覚に近い領域です。

「なんとなく違和感がある」「こっちの方がワクワクする」といった身体的実感(Felt Sense)こそが、AIには持てない人間の羅針盤になります。

考えなくても成果物が出る時代だからこそ、いわば「考える感覚」は、意識的に使わないと衰えてしまいます。

第5章 ピアノ/ジャズ/創造性への示唆

この構造は、創作や音楽にもそのまま当てはまります。

  • 身体知: 指・呼吸・体重移動
  • フロー:即興で「考えない」状態
  • 深い仕事:一音一音に責任を持つ演奏

人間とAIが共創するハイブリッドな制作プロセスにおいて、AIによる提案が「コード進行の設計」に似ているとすれば、人間が担うべき領域は以下のようになります。

身体知は「楽器との距離感」、フローは「グルーヴ」、深い仕事は「一曲を通した構成力」。単体の技術より、どう組み合わせ、どう配置するか。

これは仕事でも、音楽でも、まったく同じです。

思考は身体から切り離せない

おわりに:明日から試せる小さなアクション

最後に、すぐ試せることをいくつか挙げます。

  • 思考の整理は「手書き」で行う(キーボードから離れ、身体を使って書くことで脳を刺激する)
  • 作業前に1〜2分、歩く・伸ばすなど身体を動かす
  • 深い仕事の時間を「30分だけ」ブロックして守る
  • 疲れたらスマホを見ず、目を閉じて身体を休める(積極的な回復)
  • AIには下書きや整理を任せ、考えるプロセスは自分で持つ
  • 集中できた日の「姿勢・時間帯・環境」をメモしておく

集中力を鍛えるより、集中できる条件を整える。その視点を持つだけで、仕事や創作の手応えは少し変わってくるはずです。

参考リンク

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